週刊誌「『京都の紅茶王』リプトン創業者の遺産をめぐる泥沼裁判」......遺産の評価,生前贈与,手続の選択が勝負所
「お父さんは、どうして私に遺言を残してくれなかったのでしょうか……」 “泥沼の裁判”の顛末(中略)
“お父さん” と呼ぶのは、「京都の紅茶王」の異名で知られた福永兵蔵さんのことだ。真里さんは、2005年に101歳で死去した兵蔵氏の婚外子である。
福永さんは1930年8月、英国紅茶「リプトン」の直轄日本喫茶部を京都に創業。1967年に商号を「株式会社フクナガ」に変更して、とんかつ専門店「かつくら」など幅広い飲食事業を展開する企業に育てた実業家だ。
フクナガの年商は54億6000万円(2019年実績)にのぼる。兵蔵さんは、2度の結婚で5人の子供をもうけており、さらに城生八重子さんという女性との間にも結婚しないまま子供をもうけ、認知した。
「“お父さん” の遺産は20億円は下らないはず、小さい頃から私をとても可愛がっていたのにーー―」(中略)
後妻の長男は債務不存在確認を求める訴訟を提起した。これに対し、婚外子は2009年に遺産請求訴訟を起こして対抗した。それが、地獄の法廷闘争の始まりだった。
「裁判は合計8年に及びました。(中略)」。2013年に京都地裁が出した判決では、認められた相続分は588万7121円だけ。大阪高裁が提示した6500万円の和解案もまとまらず、裁判は続いた。(中略) 「その後、双方の弁護士同士の話し合いで解決しようということになった」
(引用ここまで)
「京都の紅茶王」の異名をとった実業家の相続で,その人間関係,巨額の遺産が注目され,2015年頃に盛んにワイドショーで取り上げられた件です。
遺言がない場合の相続は,法律に従い,「遺産分割」という手続きを経ることになります。
<遺産分割の基本的なポイント>
①相続人全員で行う必要があること
②分けるべき遺産をきちんと確定してから行うこと
③生前の贈与や,特別の貢献も評価されること
本件では,詳細な事情は不明なものの,婚外子の方が取得した遺産が想定よりも相当少なかったと言われているため,上記のうち,②遺産が想定よりも少なかった(負債の存在,会社の株式の評価,不動産の評価等が低かった),または③生前の多額の「特別受益」が存在したことが推認されます。
相続の紛争が発生した場合,相続人と同居する等して遺産の資料に簡易にアクセスできる立場の人と,そうでない立場の人で,かなり有利,不利の差が生じることがあります。恐らく婚外子の方はそうした遺産資料へのアクセスが容易でなかったものと推認されます。
相続の場合,複数の裁判手続き(家庭裁判所の遺産分割調停,地方裁判所の不当利得返還訴訟等)が同時並行的に行われたり,裁判が長期化することが少なくありません。
(令和元年度 司法統計)
相続事件については,遺言,遺産,相続人の調査や裁判手続きの選択によって,期間や労力が大きく変わることが分かる件だと思います。
また,記事中の相続人のお話しにもあるように,故人が遺言を残していれば,ここまで大変な相続紛争が生じなかったと思われることから,遺言の重要性も感じられる件と言えます。